フェニキア王の娘エウロパは、この上もなく美しい娘でした。(ギリシャ神話は「この上もなく美しい娘」ばかり登場しますが、まあそれはよしとして…)
ある日のこと。エウロパはいつものように侍女達と海辺で花摘みを楽しんでいたのですが、そこにどこからともなく、大きな牡牛が現れました。
雪のように白く美しいその牡牛は、静かにエウロパに近づいてきます。おとなしく人懐こい様子に気を許したエウロパは、躊躇する侍女達をよそに、牡牛に頬擦りをしたり花を飾ったりと戯れ始めました。
しかーし!これは牡牛の罠だったんです!
牡牛はまるでエウロパを促すように身を低くかがめてみせます。そこで、おてんばなエウロパもつい調子に乗って、その背にまたがってしまいました。
そのとたん!牡牛は突然立ち上がり、ものすごい勢いで駆け出したのです。
大慌ての侍女達を尻目に、牡牛は海岸へ、やがて海の中へと突き進みました。エウロパはといえば、牛の背から振り落とされないようしがみついているのがやっとです。
実はこの牡牛、神々の王ゼウスが変身した姿だったのです(またか×2!)。
ゼウスは美しいエウロパが一目で気に入り、自分のものにしようと牡牛に化けてエウロパに近づいたのでした。 神々の王ならそんなややこしい事をしなくてもよさそうなものですが、そこはヘラ(ゼウスの正妻)の目をなんとかごまかそうというわけで。(それにしても、なんとなくセコいのよね、ゼウスって)
やがて二人はクレタ島にたどり着きました。ゼウスは自分が生まれたこの島でエウロパを花嫁として迎え、3人の子どもをもうけたと伝えられています。
エウロパは、ゼウスがちょっかいを出した女性の中では例外的にヘラに見つからずにすみ、その後もヘラに呪われることもなく幸せに暮らしたようですが…
ちなみにこのエウロパという名前、綴りにすると"Europe"。ヨーロッパという地名は、エウロパが上陸したことから付けられたといわれています。